1999年10月
突拍子もない空想だが、もし自分にいま「映画を作れ」と言われたら、この作品を原作に映画を作るだろうと思う。延々とつながるモノローグ。ほとんどが会話で構成された文章。抑えた文体。どれもが、その時々の情景を鮮やかに浮かべさせてくれる。
新潮文庫なのに、横書きで「left to right」に書かれた文章、そこへ頻繁に英語が交じると、一見「私小説」という題材とはそぐわないような気がする。だが、これがなんともいえず「日本文学」なのである。過去から徐々に現在へとつながるモノローグの中、外では雪が降りしきる。乾いた雰囲気で、そしてどうしようもなく湿った悲しい空気。
なにが起こるというわけでもなく終わりへと進むが、とても、悲しい、それでいてすがすがしい気持ちになった。感動した。
最終更新時間:2004年10月25日 20時50分55秒